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小児鍼

小児鍼とは

小児鍼とは

昔からある小児鍼。現在、「小児はり」と聞いてどのようなものなのか深く知っている人は少ないかもしれません。

日本における小児鍼の歴史は深く西洋医学的な研究も数多くなされてきています。

以下の文章は昭和39年発行の「小児針法」(森秀太郎著 米山博久著 医道の日本社)から一部抜粋したものです。

小児針の基本的な概念が述べられています。



1 小児の生理と病理の特徴

まず第1に一般的に言って、小児は小さな成人ではないという事。すなわち、成人と全く異る点である。それは非常に急速な発育の過程にある個体であるという事である。

第2には不安定性と云う事である。生活活動のバランスが動揺し易い。その中でも中枢神経系統と栄養の面でのアンバランスは著しく現れる。

①神経系統では大脳の発育の未熟であるという事。すなわち、神径系統におけるコントロ一ルの機制が不充分であるから外来刺激に対して反射的にしか反応する事が出来ない。

②自律神経系についてもバランスは崩れ易く、時にワゴトニー症状が現れ易い。

③意識水凖が低く睡眠時間が長い。故に、乳幼児にとっては睡眠は生活の重要な部分を占める。

④刺激に対する感受性が強い。それは刺激に対して「馴れの現象」が不充分であるため、どんな刺激に対しても新鮮な感受性を有するためであろう。

⑤感覚は未発達であるが原始感覚、特に触覚は比較的早く完成する。

⑥ 皮膚は極めて過敏で皮膚血管は拡張し易い。粘膜も大体同様である。

⑦栄養のバランスが崩れ易い。そのため血液アヂドージスに陥り易く、また量や質の過不足が起り易い。

2 小児針手技の特徴

①小児針は皮膚接触刺激が主なるものである。
②刺激部位については成人の経穴のような限定した部位の選択を要しない。
③刺激時間は5分間以内である。
④刺激に応ずる感覚はほとんど原始感覚、すなわち触覚である。
⑤ 年令は生後4~5ケ月から2才位までが最適応期である。
⑥適応症は疳虫症状等といった神経症が主となっている。
⑦治療効果は反射的と見られるほど速効的である。
⑧不眠に対しての催眠的効果が著しい。
⑨皮膚血管の拡張すなわち発赤が高い確率で出現する。

3臨床から見た小児針理論
上に述べた小児の生理、病理の特徴と小児針手技の特徴の対応から考えれば次の如き理論が成り立つ。
①発育の速度が早いために精神と身体の間にアンバランス状態が発現し易い。それは離乳期頃が最も著しい。いわゆる疳虫症状がそれである。小児針がそのようなアンバランスの調整に役立つのであろうと考えられる。

②小児は大脳の発達が未熟でコントロ一ル機制が不充分であるため間脳性の反射亢進が発現し易い。これが自律神径失調を招来するゆえんである。
その反射亢進に対して小児針の治療が鎮静的に働くと考えられる。したがって小児神経症は成人の神経症とは異って一種の情緒的な反射亢進症と見るべきである。

③小児の感覚の特徴についても充分に考慮されねばならぬ。すなわち、その感覚は未熟であるが触覚は非常に鋭敏で小児針が一種の接触刺激である点が刺激方法としては小児に最も適していると言えよう。

④感覚が粗雑で部位覚が未分化で、どこを刺激しても大体同じような反応を来すことは、小児針が成人と異りポイント(経穴)についての多くの考慮を要しない理由となる。

⑤皮膚、粘膜における特徴は外界の刺激に対して異常に敏感であることである。

病理学的にはそのため種々な障害を現わす原因ともたるが、逆に治療面からは、そのことはむしろ有利となる。すなわち、小児針が軽い皮膚刺激であるに拘らず偉効を奏することが出来るのはこのためである。

⑥栄養のバランスが崩れ易いことに対して、直接に小児針治療では如何ともなし難い。栄養に対する正しい指導が必要である。しかし、そこに招来される血液アヂドージスには後でも述べる如く小児針は有効に作用する。

⑦小児が成人に比して意識水準が低く、また、よく動揺し易いことは注目せねばならぬ。小児の睡眠時間が長く、小児の生活にとって成人以上に重要である点や疳虫症状の主たるものが不眠や夜泣きである点より見て、意識水凖の安定が小児針治療の大切な要素である。小児針が感覚に対する反応や器管系統の働きの異常の調整と言うよりも、さらにさかのぼって、その根底をなす意識水準の安定調整作用をなすであろうことは充分に理解し得るところである。

以上を要約すれば小児針は小児の発育過程に基づくアンバランスの調整に最も適した一種の皮膚刺激療法であって、その作用点は神経系統特に間脳あるいは、綱様体にあると言うことが出来よう。

4 諸家の小児針理論

a 酸塩基平衡調整説(水野重元博士)
この水野重元博士の研究は幼若家兎に対する皮虜針の効果の実験的データであって、必ずしも小児針治効に妥当するとは言えないが一応小児針の理論として取り上げても良いと思われる。
要約すれば皮膚針の適量刺激は血液アヂドージスを抑制して、骨の発育に好影響を及ぼすという事である。
小児特に疳虫症状を呈するものが一般的に血液アヂドージス傾向にある事は事実であり、藤井秀二博士も指適されるように糖分過食による障害、血液アヂドージスによる症状であると見る事も出来る。我々の臨床においても疽虫病状を呈する小児に糖分過食のものの多い事が経験される。
先にあげた小児の特徴の中でも述べたのであるが、栄養のバランスが崩れ易く、その影響にも非常に敏感である事から考えて、この酸塩基平衡調整説は小児針の一面の治効を説明し得るものと考えられる。


b 変調療法説(藤井秀二博士)
小児針に関する藤井秀二博士の研究業績は膨大なものであって、小児針研究は勿論の事、鍼灸研究にとって非常に優れた資料を提供する。今我々に必要と考えられる点だけを要約してみると次の通りである。
小児針は造血器を刺激して、血液像の各種の変化をもたらす。その中でも著しいものは、白血球の増加と好中球のアルネット氏核の左方移動である。また血行に著しい変化が現れる。すなわち、皮膚血管の収縮及び大脳血管の収縮と小腸血管の拡張等である。
さて、これらの効果は交感神経を遮断した場合は起らない。また、逆に予め交感神経を緊張状態にしておくと著明に発現する。
このようなデータから藤井博士は、小児針は皮膚知覚を介して交感神経の緊張状態を変化させる一種の変調療法であると結論している。同博士は乳児や年長児に対しても人体実験を行っているのであって、小児には自律神経失調が現れ易いという特徴にも良く適合した理論というべきであろう。
発育速度の著しい乳幼児が成長に最も関係のある自律神経に不安定の状態が起り易い事に対して、小児針の治効がその調整にあるとみる事はこの理論の優れた点である。
さらに、大脳血管に対する反射的収縮作用は、異常に興奮している中枢の安定に好影響を及ぼすのであろうことも注目すべき点である。

c 大脳制止説(前田昌宏氏)
この説は最近前田昌宏氏の提唱されるもので小児針の治効は、大脳皮質における制止作用にあるとなすものである。
前田氏はソ連のパブロフ学説に基づいて、小児針による小児神経症いわゆる疽虫症状の治効を解明したのである。この説は本質的にはパブロフ学説の理解なくしては説明が難しいが簡単に要約を述べると次の通りである。
乳幼児の大脳皮質は成人に比して刺激の耐容性(刺激を受げ入れる能力)が弱いため各種の刺激で容易に疲労して、正常な反応を示さなくなる。そしてその結果、強い刺激よりもかえって弱い刺激に対して過敏になる。という事態が生じる。
これを逆説相と言う。このような大脳皮質の耐容性が低下してかえって弱い刺激に過敏に反応する状態が小児神経症すなわち疳虫症であると言う。
この疳虫症に対して小児針は非常に徴量な刺激として、よく大脳の知覚領に弱い興奮巣を形成する。この場合にその興奮巣は周囲の大脳の他の部分や皮質下中枢(自律神経中枢)に対しては強い制止作用を示す。
かくして大脳の異常な状態が改善されるというのである。

前田氏によれば
1).疳虫症扶が大脳発育の未熱な小児に起ること。
2).小児針治療において強刺激よりも微量の刺激の方が有効であること。
3).治効の発現時間が速く神経反射的である等の臨床的事実がこれによってよく説明出来得るとしている。
以上の如く前田氏の所説は推論であるが、小児針の臨床をかなりよく説明していると言えよう。

d 綱様体調整説
この説は最近、マグーンの研究によって明らかになった大脳皮質並びに視床下部に対する脳幹綱様体の調整機能を小児神経症(疳虫症)とその小児針治効理論に採用してみた私の1つの試論である。
乳幼児の意識水準は低く、ウトウト眠ったり目覚めたりしている。この事は大脳皮質が充分の発達をみないため、主として全般的な意識水準をコントロールする綱様体の機能が大きく作用している事を示している。そしてまた、原始感覚と呼ばれている触覚、痛覚等が綱様体の興奮に最も良く作用する感覚である。そのような関係で乳幼児のようにこの感覚が他の感覚より早く完成するという点から考えても綱様体の調整は重要である。
綱様体は末梢求心路からの側枝の刺激を受けて常に興奮して大脳及び、視床下部に促進系の刺激(目ざめ)と抑制系の刺激(睡眠)を送っているとのことである。
小児針の軽微なほとんど無感覚にも近い皮膚刺激は主として綱様体に伝えられて、その機能を調整する。そして、綱様体は大脳皮質に作用して、その意識水準の乱れを調整し、さらには視床下部に働いて自律神経支配下の諸機能も改善すると考えられる。

以上4つの説は小児針の治効を充分に解析し得るとは考えられないが、おおむね共通した点を有すると考えられる。
すなわち、皮膚知覚が小児針の作用点であって、それが視床下部であれ、大脳皮質であれ、或は綱様体であれ、一定の中枢に対して求心的刺激となってそこに極めて有効的な安定作用、反射作用が行われて我々が臨床上見るような結果が現れると言う事である。
そこには小児の中枢神経系の未熟性と云うことと、小児神経症、小児針操作と小児の皮膚感覚と云うことがらが見事にコントラストをなして小児針治効の核心をなすと言えよう。

昭和39年発行 昭和48年第5版発行 「小児針法」 P88~ 95 森秀太郎著 米山博久著 医道の日本社 引用

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